スポーツバイクの華 変速 (追記編)
2015/4/15追記
2015/4/3




変速関係の追記です
  別項「スポーツバイクの華 変速機」の追記編になります。そこでも書いていますように、その後様々状況も変わりました。前コラムで十分な説明がなかったコンパクトドライブや、他変遷などを記したいと思います。

コンパクトドライブ
  ロードでは、ギヤ歯数構成がここ最近で大きく変化しました。そのベースになったのが、コンパクトドライブの登場です。登場した時は、「コンパクトドライブ」と呼称していましたが、今ではこの言葉があまり聞かれなくなったは、もちろん消滅したのでなく、普通に、当たり前になってしまったからでしょう。
  また前のギヤのことを、チェーンホイールと言うのですが、この言葉では何となくギヤ部分のみの印象があるので、以降は馴染みのある「ギヤクランク」とします。また、変速機は、ディレーラーとも言いますが、リヤメカ、フロントメカが最近は復活しているようです。ここではその「メカ」とします(タイプ打ちもしやすい・・・?)。自転車用語、これはこれで奥深いものがあるのですが、また別にまとめたいと思います。
  ロードにおけるフロントギヤの変遷とコンパクトドライブに至った変遷を見てみます。

近代(1950後半~)ロード用ギヤクランクとPCDの変遷



近代ロード用ギヤクランクの元祖と言えるカンパ(カンパニョーロ<Campagnolo>)のPCD151ギヤクランク。最少インナーギヤは44Tでした。中には52-48という歯組もあったりしました。リヤローギヤ21Tだったとすると最少ギヤ比48T ×21Tで2.28!! 現在の34T ×28Tギヤ比1.21を知ったらどうなった事でしょう。父よあなたは強かった。

さすがに最少インナー44T では厳しい!!ってことで、PCD144になり最少インナーギヤ42Tになります。日本のチェーンホイールの雄、スギノ・マイティコンペも追随します。確かにカンパは最高の性能でしたが、価格面でも入手することが難しい。しかし、マイティコンペは十分に競技に使えるものとして、選手のギヤとして活躍しました。スタイルを求める方には、カンパデザインにより近いSR(栄輪業)のロイヤルファイブが重宝されました。

シマノ初代デュラエースはPCD130で最少インナーギヤ39T装着を可能にします。しかし、まだまだ時代の気分はは追いつかず、アームが短いだけで130PCDは敬遠されがち。マイティコンペに一歩ゆずります。しかしその後コンパクトドライブが出現するまでは、このPCD130がロード用チェーンホイールのスタンダードになります。 今見れば、アームもしっかり長いほうだと思います。

現在のロード用チェーンホイールPCD110の基礎を築いたとも言えるスギノAT。前身はマイティコンペのPCDを110にしたツーリング用マイティツアー。PCD110は最少34T。これでランドナーにも使われていたのです。 ATは、1980年代初頭、量産化され始めたMTBのハイエンドに大変多く使われ、その後MTBにおいてPCD110がチェーンホイールのスタンダードとして定着します


  上記の近代ロード用ギヤクランクの変遷にありますように、PCD151の最少インナーギヤ44Tに始まって、PCD144、そしてPDC130の時代がしばらく続いたのですが、門外の出自であるツーリング用のPCD110がコンパクトドライブ用として現在に至りました。しかし昔あったロードの様式美から言うと、これだけ短いアームのPCD110は本来受けいられるはずはなかったのですが、長い時を経て違和感がなくなったと言えるのでしょう。
  上に示したようにスギノATは、ハイエンドMTB用チェーンホイールの定番となり、これに倣って他に普及価格帯のギヤクランクが出てきます。米国発祥のMTBは、その後日本だけでなく、米国文化にとりあえずは拒否反応を示す欧州にも拡散し、アジア、南米、アフリカなど世界中に普及します。現在でこそそれほど多くはないですが、以前にPCD110が同様に世界中に拡散したと言え、世界標準ともなったPCD110をロードにも使う動きになったと考えられます。



  また、変速機や材料・加工の進歩も後押ししました。アウター・インナーでギヤ差が少ないPCD151から始まったのは、当時のフロントメカでは、大きなギヤ差の変速がスムーズに行えなかったこと。変速は出来たとしても、もたつくようではレースには使えません。また、クランクと一体化した長いアームにギヤをつけることで、ギヤの振れを少しでも抑えたいということもありました。リヤメカ側でも大きなキャパシティを有したものがなく、当時のロングケージリヤメカではやっぱりメカ側での剛性低下がありました。
  これら技術的背景はともかく、ロードでは長いクランクアームが様式美と化し、せっかくインナー39Tが使えるシマノ発祥のPCD130は、当時としては少しばかりアームが短いだけに、人気の点で一歩ゆずらざるを得ませんでした。また当時は駆動系のメーカーを統一化しなくても良かったのです。
  現在に見られる変速位置決めインデックス機構により、コンポーネント統一化の必要が生じます。やはり、シマノコンポーネントが性能面で圧倒的優位にあり、同時にPCD130が標準となり、ロードで、暫くの間PCD130が標準となりました。しかし、この時点ではアウターギヤはまだ52~53Tが標準でした。
  ロードでアウターギヤ52Tが標準であったのは、リヤで最少トップギヤ13Tまでの時代が長く続き、高いギヤ比を確保したいということに拠ります。フリーホイール機構と後ギヤが合体したフリーホイールタイプでは、トップ13Tが限界でした。現在見られるように、後ハブにギヤをはめ込むカセットギヤになり、リヤトップ12T、或いは11Tも可能になります。11Tまでになれば、フロントアウターに52Tを使う必要性がありません。そこで世界中に拡散していたPCD110を利用して、アウターギヤに50T、インナーに34Tを使い、52Tからは小さくコンパクトにしたことから、「コンパクトドライブ」と言われたのです。
  50Tと34Tでギヤ差14枚もありますが、フロントメカの性能も向上しました。短いアームにつけられる大き目のギヤ板も、アルミ合金材料と加工工程の向上で、ギヤの振れも少なくなりました。
リヤメカはショートケージでもキャパシティが向上し、軽量化を行いながらもメカ全体の剛性も急激にアップしました。またリヤローギヤをカバーする範囲も拡大し、従来ならロングケージでないと使えなかったリヤローギヤ28Tも、ショートケージで使えるようになったのです。
  そして現在、ロードでも最少ローギヤ34T×28Tでギヤ比1.21が獲得できました。一時、ロードでもフロント3枚ギヤのトリプルが支持されたこともありました。PCD130で、アームの内側に3枚目のインナーギヤを取り付けられる台座を設けて、30Tを付けました。しかし当時では、リヤのローギヤは25Tが標準でしたから、最少ギヤ比30T×25Tで、ギヤ比1.20。そうです。今はトリプルギヤを使わなくても当時の最少ギヤ比までをカバーできるようになったのです。

現在ギヤクランクの例。SHIMANO-105のリヤ10段用FC-5750(左)とリヤ11段用FC-5800(右)で、ともに50-34Tです。FC-5750ではPCD110・5本アームの形をとどめていますが、BB軸がクランクと一体化しているので、クランクキャップがありません。FC-5800に至ってはPCD110であるものの、4本アームになり、ギヤ板も中空構造でさらに剛性が向上。すでにギヤ「板」とは呼べない構造になっています。前衛的な形状に難色を示される方もまだまだ多いようですが、これも時を経れば普通に見えてくるかもしれません。

BB軸規格への波及効果
  また、上述のスギノATはBB軸のスタンダードも築いたことも大きいです。
  最近では右クランクに太いBB軸が合体したホローテックタイプと呼ばれるギヤクランクも少なくありませんが、四角テーパーのBB軸が今でも多く使われています。この軸形状もパッと見にはわかりませんが、いくつかの寸法規格があります。
  現存しているのは、JIS規格タイプと、俗称カンパテーパーと呼ばれる2種類になります。残念ながら、他の部品の規格でJIS独自のものが世界基準になった例は少ないのですが、BB軸の四角テーパーは、JIS固有の規格が世界基準になった数少ない例です。
  スギノATは、PCD110。前身は、マイティツアーというギヤクランクになります。PCD144のマイティコンペのアームを短くしてPCD110とし、インナー34Tが付けられるものでした。マイティコンペは、カンパに倣って、カンパと同じ四角テーパー軸に合ったギヤクランクであり、マイティツアーも「マイティ」と名乗る関係で同様でした。しかし、スギノATは量産完成車装着も考慮されてか、JISテーパー軸対応で生産されました。上に記しますようにATに倣ったチェーンホイールも同様。それらが装着されたMTBが、大量に北米へ輸出されます。そしてそれらに倣って、北米以外の国々にMTBが普及します。結果、JISテーパーのBB軸が世界基準になったということが言えます。
  競輪規格NJSは、当初レースの本場であるイタリアに倣ったこともあり、今でもカンパテーパーのBB軸が規格になっています。従って、たとえば競輪選手のお下がりのフレームセットをBBセット付で入手できたとしても、一般的なチェーンホイールを装着した場合、組み付けが十分でないこともあります。寸法図で示しますように、寸法関係は微妙で、一応は組付け可能なのですが、詳細にみると少し異なるため、十分な締結力が得られないのです。
  四角テーパーの寸法規格は、他にもありましたが今ではほとんど現存しませんし、それらヴィンテージパーツを使われる方は、ご自身で認識されているので、特に注意する必要はないでしょう。
  また、BBネジ部分も、JIS、イタリアン、フレンチ、スイスなどがあり、イタリアンは今でも健在です。イタリアブランドの自転車で、日本向けに出荷されたものはJIS準拠になっているようですが、イタリア本国向出荷製品はイタリアン規格です。あまりないと思いますが、並行輸入商品ではイタリアン規格である可能性が高くなります。フレンチはほぼ消滅ですがヴィンテージな自転車ではフレンチであるかもしれません。スイス規格は日本への流入は少ないと思いますが、今でも一部欧州では健在だそうです。
  また、四角テーパーでなく、8角星形のオクタリンク、或いはISIS(今ではこの名称、どうなのかなあ?)と言った四角テーパー以外のBB軸や、前述のホローテックタイプ、またBBネジがなく大きなサイズのBB30など。さまざまな規格も登場しました。ISISは、最近登場の規格なのに、すでにほぼ消滅状態です。新たな規格は、良かれと思って提唱されるはずなのですが、消滅してしまっては結局使っている人が困ってしまうことになります。ましてやフレームで新規格に準じる必要がある場合は、肝心のフレームも使えなくなります。新規格は今後の行方をしっかり見据えて選択することが必要と思います。
  以下、BBセット周辺の寸法関係のまとめになります。最近は軸とベアリング関係が一体化したユニットBB(カートリッジBB)が多いですが、示した図は伝統的な軸、左右ワン(カップ)、ベアリングで構成されるBBセットの断面図になります。


トップギヤ比、そして、
ジュニア競技規則など
  トップ側のギヤ比ですが、リヤで11Tまで求められない方が依然多いのも事実です。10段もあるのだから、普段使わないで、いざと言うとき(下りでバンバン踏むとき)に取って置いては? とも思うのですが、使わないギヤはいらないということでしょうか。
  なお、競技規則では若年層でトップギヤ比の制限があります。GD値で、ジュニア(18歳以下):7.93m、16歳以下:7.01m、14歳以下:6.10m、12歳以下:5.66mが上限となっています。たとえばジュニアの場合、以前のロードならフロント52Tで、リヤトップギヤ14T でないと、規則に合いません。
(52T ×14Tでギヤ比3.71。27インチチューブラー(700Cホイール)のタイヤ直径が約670mmでタイヤ外周2014mm=2.014mですから、
     GD値=ギヤ比3.71×タイヤ外周2.014m=7.47m
リヤトップ13Tなら、52T×13T=ギヤ比4.00
     GD値=4.00×2.014=8.03m
になり、13Tトップは規則外になってしまいます。)
  以前、フリーホイール時代でも、トップ13Tの製品はありましたが、高級品に限られました。重いギヤを踏んで、高校生アスリートの大事な膝を痛めることは忍びないという親心よりも、高校生の分際で高級フリーホイールを使うのは何事かっ!!! と言う余計なお節介とも思っていました。しかし実情はそうではなかったようです。高いギヤ比があると下りなんかでバンバン踏んだりできるので、やっぱり記録は伸びます。しかし若い自分に昇華しきったいい記録を上げてしまうと、将来に続かないということが案じられれれるということ。親心もさることながら、いい選手を将来に亘って選手を続け、さらなる記録を打ち出してほしいと言う、思いがあるとも聞きました。歌、の世界でも、10代でヒットを飛ばしても、昇華しきったせいか20代以降続かない例も多いですね。競技の世界では、自分の思い知らない様々な配慮があったことに感じ入りました。

リヤ変速の環境変化
  リヤ側の変速についてになります。
  上記にありますように、リヤメカの関係もあり、少し前まではロードではショートケージ変速機で、ローギヤで25Tの時代がしばらく続きました。もっと前のフリーホイールの時代では、13-21T5段が長く続きました。13-21T 5段の構成は、一般的に13-15-17-19-21Tになっていました。歯数差は、少ないほうが変速がスムーズです。特に競技では確実で、スムーズな変速が求まられます、その中でこのギヤ構成が求められたのでしょう。ロードでこのような歯数の小さいフリーホイールが多く装着されていたことからも、戦闘的でカッコいいという様式美が刷り込まれたのでしょう。自分が長年愛用していたランドナーでも、フロント47-40-26Tなれど、カッコを優先して14-21Tを使っていました。ロングケージではリヤ側で大きなローギヤも使うことができて、フロント・リヤ全体のギヤキャパシティも大きかったのですが、あまり好まれませんでした。長いプーリーケージが変速機の剛性低下で変速性能が落ちるとか、もっともらしい理由もあったのですが、結局は小さいリヤギヤ同様に様式美的観点の要素も大きかったと思います。
  前述のように、一時フロントトリプルが支持されましたが、リヤメカにはロングケージが必要とされ、これがどうしても許容できない(外観的に)こともあり、多くの支持を集まられなかったこともあったようです。
  リヤ5段(もっと以前は3段、4段)から、段数はどんどん進化します。そして今や10段あるいは11段も一般的になってきています。

現在はショートケージがほとんどですのであえてショートケージと言って意識していないのが現実です。シマノカタログではSS仕様となっています。ロングケージはGS仕様とされていますが、以前サンツアーではGTと呼ばれていました。
多分、特別なモノとして当時クルマのグレードの称号としてのGT(グランツーリスモ)をあてはめられ、方や同様にクルマのグレードであるGS(グランスポーツ<イタリア語で通すならグランスポルト?>)が使われたのではないかと思うのですが、今となればどうでもいいことですね。
雰囲気的に「ゲージ」と言われたりしますが、上下二つのプーリー(歯車)を囲う籠の「ケージ(籠)」が正しいです。

  たとえば12-28T10段を見ると、12-13-14-15-17-19-21-23-25-28T、13-21Tに見られた2枚差どころか、1枚差と2枚差しかありません(最後に3枚差がありますが)。リヤメカの性能向上していますし、大きな28Tローギヤを付けても変速性能になんら問題がなくなりました。また歯数の少ないほうが・・・という様式美も、ギヤクランクで長いアームでないと・・・と同様に意識が変わったのだと思います。
  ローギヤ21Tとしていた時代でも、アメリカでは28T以上の大きなリヤギヤを備えたスポーツ車が好まれました。総称して「テンスピード」と呼ばれていたモデルです。リヤメカにはロングケージが装着されます。前述のような様式美よりも、実を取る楽天的なアメリカ人気質が表れています。このような国だからこそ、BMXやマウンテンバイク、太いチューブのアルミフレームが生まれたのでしょう。


近代リヤメカの
変遷

右はイタリア・カンパニョーロ(通称カンパ)グランスポーツ(グランスポルトが正しい?)で、上記のPCD151時代、前後での歯数差も非常に小さいときに使われたものです。キャパシティは非常に少ないです。プーリーケージの軸がほとんど真ん中であるのがわかります。中央はカンパ・ヌーボレコードで70年代にみんなが憧れたリヤメカです。PCD144時代に使われ、グランスポーツよりはキャパシティが大きくなっています。プーリーケージの軸も少し上へ移動しているのがわかります。このことでプーリーケージが振れる角度も大きくなり、キャパシティも大きくなったわけです。そして左は初代シマノ・デュラエースでのリヤメカだったクレーン。リヤメカだけ先行していてデュラエースでなくクレーンとなっていました。かつてシマノのリヤメカは、ラーク(ヒバリ)、ペッカー(キツツキ)など鳥の名前が与えられていて、クレーン(鶴)になったでしょうか。
いずれにしても、クレーンで現在のシマノリヤメカ形状の基礎ができます。ご覧いただくようにカンパそしてフランスのサンプレックス(通称サンプレ)、ユーレーも同様にパンタグラフ部分が縦型であるのに対し、日本製リヤメカ黎明期は縦型でありましたが、クレーンだけでなくサンツアーのリヤメカもパンタグラフが横置きでした。もっと以前、縦型の方がスマートに見えて、「なんで日本のリヤディレーラーは縦型にしないのか?」と言うことが専門誌の読者の声に書かれたりしました。我々は変速機の設計側でないので明確なことは言えないのですが、実は横型の方が、キャパシティも多くとれて変速性能も高かったのではないかと思います。それに当時、日本でそれなりのスポーツ車が販売できる市場は1万台あるかないか。一番のお客さんは北米であり(欧州は古参のメーカーも乱立していて客先にならない)、前述のようにギヤ比が大きくて、大きなリヤローギヤが好まれます。一番のお客さんの北米向きにも沿った設計がなされたのではなかったかと推察します。
イタリア、フランスの変速機メーカーも大きな市場の北米を無視できず、その後プーリーケージ軸の位置がどんどん上に上がるばかりか、その後、日本式の横型に変わるまでそれほどの年月を要することにはなりませんでした。(現在のカンパはすべて横型ですね)
縦型リヤメカ、これも当時の様式美の一つだったのですが、これとて現在では「そんなことがあったなあ」とか、「何それ?」と言う時代になってしまったように思います。
画像のキャプションの割には、説明が長くなりました。

(2015/4/15追記
)
北米的
「テンスピード」とは?

  1970年代と思われるARAYAの北米向カタログの例です。縦長の表紙の下のトップを飾るのは初代デュラエースをフルセットで採用したモデルで、日本人が見てもロードとしてのスペックを保っていますが、他のモデルには北米的テンスピードのキャラクターになります。COMPETITIONと言っても、ビギナーに嬉しいセーフティレバーや、前述の28Tのローギヤ、ロングケージのリヤメカが装備されます。大きなメッキ仕上のスポークプロテクターも特徴的ですね。
 上記ページはクリックして
 拡大できます。

現在のリヤメカ状況
右画像は、CRF2012(左)とCRF2014(右)のリヤメカ部分で、RD-5700とRD-5701になります。ほとんど同じに見えますが、プーリーケージが微妙に長くなっていることがわかります。RD-5701になり、リヤ最大ギヤのキャパシティが27Tから30Tになっていたのです。RD-5701は2013モデルからの採用でしたが、2014モデルでローギヤを25Tから28Tに変更になり、ギヤも大きくなっていることも画像比較でお分かりになるでしょう。

  リヤメカ形状は、先に挙げたクレーンを継承しているものの、すこしずつプーリーケージ長くなってきています。さらにRD-5701で長くなり、昔の基準で言ったらロングケージに属するかもしれません。 
  ローギヤ28Tは、前述のかつてアメリカで好まれたテンスピードと同じであり、また当時では日本を含め、欧州では理解できなかった様式のはずでした。しかし現在では、気にする方も少なくなったと思います。RD-5701となった2013からでなく、2014からやっと28T採用と言うもの、手探りでの採用であったことが表れてもいます。
  この短期間を見ても、様式の見方が変化してきているのがお分かりいただけるかと思います。

現在変速関係の
ご注意事項など
  今まで述べましたように、段数の増加だけでなくそれに伴って、周辺の部品の様式が常に変化してきました。段数はリヤ3段、4段の時代から5段になり6段、7段そしてあっという間に11段までになりました。7段以降はチェーンの幅も変わり、6段まで、そして7・8段、9段、10段、11段でそれぞれチェーンが異なり、どんどん狭くなってきました。
  また、カチカチで変速の位置決めができるインデックス機構に加え、踏み込みながらでも変速できる、シマノコンポで言うHGシステムも投入され、どちらも今では当たり前のようになってしまってます。
  かつて変速は、踏み込みながら変速できるものでなく、また変速も位置決め機構がなくて手探りでレバーの位置を決めたものでした。変速時は、チェーンを無理やりにギヤの位置を変えることでありチェーンに大きなストレスが発生します。それでも堪えるようにチェーンのピンの強度が向上し、無理やりのチェーンの架け替えもできるギヤの形状が考案されてきたのです。
  しかし、変速できるようになったと言っても、踏み込みながらの変速は、やはりチェーンには大きなストレスが生じます。またどんどんチェーンの幅が狭くなるにしたがって、いくらピンの強度を増したと言っても条件はさらに厳しくなっています。
  今では何も思わず変速していることなのですが、変速時には踏み込む力を抜くようにしたいものです。チェーンを痛めないこともありますし、万一のチェーン切断による重大なアクシデントを避けるためにも重要です。
  また、このような過酷な条件で使用されるため、チェーンの交換はまめに行いたいものです。伸びたチェーン、ストレスが溜りまくったチェーンは、ギヤにも不要なストレスを与えギヤの摩耗も促進します。クルマでまめにオイル交換をすることでエンジンの寿命を伸ばすように、チェーンの、こまめな交換は、他周辺部品の寿命を伸ばすことにもなります。
  幅がどんどん狭くなりデリケートになってきたチェーンの交換は、ある意味技術を要するものです。販売店さんでのチェーン交換依頼をお勧めします。不用意なチェーン接合により漕いでいるときの突然のチェーン切れは、重大な事故の原因にもなりかねません。

様式美
から
今後の変速関係について
  変速についての追記であったはずなのが、変速を取り巻く様式の変化に終始したように思います。例に挙げた部品はロード用が中心になりましたが、ツーリング車に好まれたフランス系のコンポもあったのですが(「あったのですが」と言うのは、フランス系の部品メーカーは今やほとんどが消滅してしまったことに拠ります)、これはさらに詳しい方も多いので、触れるのを避けたい気持ちが出てしまってます。ツーリング系に好まれたと言っても、日本においてのことであり、プジョーをはじめフランスのチームは、愛国心と自国産業のことを考え、サンプレやユーレーの変速機にTA、ストロングライトのギヤクランク、マファックのブレーキ・・・を装着したロードで、かつてのツールドフランスのステージを駆け抜けたこともありました。
  ラレーも、もちろん英国部品で固めたレーサーを作っていましたが、欧州大陸のロードレースに出場するようになってからは、カンパをはじめ、ラグにはフランスのナベックスのラグを使うなど、良いものは何でも(節操なく・・・?)取り入れていくようになります。人文科学には明るくないですが、この辺がアメリカと同じくアングロサクソンの気質が出ているとも思います。
  ご覧いただいたように、長年をかけて、かつての様式美の考えも時代によって変わってきたことがお分かりいただけると思います。
  今後もさまざまな機構・寸法規格が出現するでしょうし、ここでは紹介しませんでしたが、フロントギヤのセンター部分の寸法であるチェーンラインも、現在までどんどん変わってきました。現在では、ロード43.5mm、MTB50mmが一般化しましたが、以前は42mm、トリプルで45mmであったはず。どうやらこれからは拡大傾向と思われますし、リヤハブOLDもロード130mm、MTB135mmなのですが、ロードのディスク化、より多段化、MTBの太軸化でこれも拡大傾向のようです。さらに新参ファットバイクに見られるように、BB幅も新たなものが出て来ると思います。今後また忘備録を兼てまとめたいと思います。
  また、一部高級ロードコンポでで実用化されている電動変速が、もっともっと普及することが予測されます。今でこそハイエンドのロードコンポのみですが、このシステムこそ、普及価格帯のクロスバイクなんかにいいシステムと思います。しかし、自転車は機械装置の塊であり、技術者も機械には強くても、電気・電子、そして油圧には、今まであまり馴染みがなかったことも事実です。これからの自転車の技術者にはさらなる広範囲の技術・知識が必要になり、大変な時代になったとも思います。・・・・他人事のように言っていてはダメですね。