2006/12/16
追記・訂正 2006/12/27
2015/3/28 更新
以下で書いている「ディープ」とは、アップした当時大活躍した競走馬「ディープインパクト」のこと。他のコラムにもあるのですが、時事用語を書いてしまうと、後で恥しくなるどころか、何のことやら、わからなくなってしまうこともありそうですね。
なお、「○○年前」と言うような表現もありますが、このコラムをアップしたのが、2006年でありその時点からの前になります。今は、2015年です。早いものでもう10年近く前のことになります。その後大きな変化はないのですが、また素材関係で新たなものが出てきたときに、書き加えたいと思います。
> 材料工学をしっかりと修めたわけではないので・・・
などと、エクスキューズを入れておりましたが、たちまち馬脚が出てしまったようです。もっともディープのような脚ならいいのですが、当方の場合、走りは決して馬ではありません。
お読みいただき、ご指摘いただけること、本当に嬉しく思います。
そのほかのInfoFAQでも、勘違いをしていたり、へんな表現になっていることもあろうかと思います。
お気づきになられたことがありましたら、ご指摘いただけるとありがたく存じます。
コソっと訂正してもよかったのですが、恥を忍んで、あえて前回アップのものをそのままにして、一部の追記・訂正を行いました。
新モデルの立ち上げなどもあり、暫くお休みしてしまいました。すみません。
「次回はサイクリングのことなど・・・」と書いていましたが、すっかり冬になってしまい、ちょっとそのような季節でもなくなりましたね。 日が短く、寒い季節ですがそれでも、陽だまりを見つけてチョコっと走るには風情があって、何より汗を気にしないと言う点では、一番いい季節かもしれません。
でも今度作った広告に、「素材に関するの続きは・・・」なんて書いてしまいましたので、慌ててこのページを作っております。いつもながらの粗製情報を容赦ください。
自転車のカタログやWEBサイトを見ていると、クロモリとかアルミとか書かれています。これくらいならいいのですが、7000シリーズアルミや、3-2.5Ti、AZ91マグネシウム合金・・・なんとなくカッコいいのですが、なんだこりゃと言う感じですね。
素材に関するご質問もよく戴きます。自転車に使われている材料などを簡単にご連絡したいと思います。材料工学をしっかりと修めたわけではないので、専門の方から見られるとおかしなところもあるかもしれません。変なところがありましたら、ご指摘いただけると嬉しいです。
「THE ALL STEEL BICYCLE」、全て鉄の自転車というのは、Raleighが長年使った代表的なコピーのひとつです。全部鉄製なんて、今では当たり前ですし、ましてやアルミやステンレスが採用されていないなんて、逆にデメリット表示になりますね。しかしながら、Raleighが創業しだした19世紀終わり頃は、自転車のフレームは異種金属の鋳造ラグで溶接されたりして、フレームが壊れることなども多かったようですが、Raleighが開発したチューブラーフォーククラウンや、鉄のシートからプレス成型したラグ(フレームチューブの継手部分)により、全て鉄でフレーム・フォークを製造することができ、これが大きなセールスポイントになったようです。19世紀終わりごろというと、日本では明治維新が終わったばかりで、官製で製鉄所がまず最初に作られた頃です。確かにそのような時代に、自転車を全て鉄製で作ることは画期的だったのでしょう。
「鐵(てつ)は國家(こっか)なり」ということで、鉄の増産がまず最初に掲げられたのは、維新後の日本も、革命後の中国も同じような経路を辿っています。また、もっと時代を遡れば、卑弥呼が日本(倭國)の争乱状態を収めるまでは、鉄の流通ルートを巡る争いであったとのこと。青銅に比べて鉄は強力な武器になり、生産性向上の利器でもあったということで、まさに代表的な実用金属といえるのでしょう。 自転車では現在軽量なアルミに押されていますが、最近ではクロモリをはじめとして鉄が見直されています。クロモリは自転車の中でも良く耳にする材料なのですが、これも鉄の一種です。よく自転車御同好の方々が集まるスレッドには「黒森」などと冗談で書かれていますが、私のパソコンでもようやく「くろもり→クロモリ」の変換を覚えたくらいで一般的な言葉ではありません。
アートギャラリーのページでもご覧いただけますが、ラレーの昔の広告用イラストには 「THE ALL STEEL BICYCLE」のコピーが多く入っています
19世紀末にRaleighが開発したチューブラーフォーククラウンとスチール製フレームラグ。フレームラグについては、100年以上も経過した現在の軽快車のそれとほとんど違いがありません。
鉄といっても、ほとんどの鉄は鉄(Fe)元素だけで構成されてはおらず、少しだけ異種材料が混ざっています。炭素(C)、珪素(シリコンともいうSi)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)などがその成分ですが、どれも1パーセントを大きく下回るくらいしか混ざっていません。またクロモリでは、そのほかにクローム(Cr)とモリブデン(Mo)を混ぜているのです。それでCr-Moと書いたりします。やはりこちらの混ぜ物も同様に非常に少ない量です。しかしCrとMoの混ぜ具合をほんの少し多くするだけで、飛躍的に材料強度が上がります。普通鋼と呼ばれている一般的な鉄の引張強度が30kgf/mm2に対して、クロモリは約3倍の90kgくらいまで上がります。
現在発売中のクロモリフレームラレーCRFに採用されているアウターバテッドシートチューブ。
シートチューブ上端で、外側と内側でそれぞれ肉厚を増やし、中間部を薄く加工しています。
薄肉化による軽量化と、上端厚肉化で溶接強度とシート固定強度をアップさせ、さらにシートチューブ中間でチューブの内径を大きくすることにより、シートポストの上げ下げに対してのクリアランスをアップさせています。
ここで引張強度というのが出てきましたが、単位断面積の材料がどのくらいまで引っ張っても破断しないかというのを表しています。1平方ミリメートルあたり何キロまで引っ張れるかです。以前に「バルブの話」で述べましたが、本来なら国際単位Pa(パスカル)で書かなければならないのですが、ピンと来ないので、このままkgf/mm2で進めます。ちなみに1kgf/mm2は、 9.80665MPa(メガパスカル)、あるいはN/mm2(ニュートン/平方ミリメートル)になります。MPaはおおよそ10倍で、1kgf/mm2=10MPaと覚えておけばいいでしょう。N(ニュートン)とは1kgの物体を1メートル毎秒毎秒(m/s2)の加速度を生じさせる力だそうです(何のこっちゃ)。1N/m2(ニュートン/平方メートル)=1Pa(パスカル)と言うことらしいです。地球は9.80665の重力加速度を持っていますので、1kgの物体は1×9.80665=9.80665Nの力を持っていることになります。
例えば直径2mmの棒があったとすると、これの断面積は半径×半径×円周率ですから、直径2mmの半径1mmで、円周率3.14とすると1mm×1mm×3.14=3.14mm2、断面積は約3mm2ですから普通鋼だと30kg×3=90kgまで引っ張っても大丈夫になります。極端な例で行くと、たった2mmの直径の針金みたいな普通鋼に、普通の体重の人がぶら下がっても切れないわけです。(安全率をまったく見ていません。間違っても実験しないでくださいね。)普通鋼でもこれだけ強いわけですから、3倍の強度を持つクロモリ恐るべし、断面積1mm2、つまり直径0.7mmくらいのシャープペンシルの芯のようなものでもぶら下がれるわけです。
クロモリのほかに、ハイテンというのも良く聞きます。正しくはハイテンション鋼、高張力鋼と言って、これも鉄です。クロモリと違って、CrとMoはあまり含んでいません。先に書いた鉄の一般的な混ぜものの量が少し多くなって、普通鋼より引張強度が高いものです。ハイテンは一般的には50kg/mm2以上の強度を有するものを言うのですが、35kg以上でもハイテンと言っています。また自動車業界では100kg以上でクロモリ以上のものも使われることがありますが、後で述べるように材料自体の強度が上がっているだけではありません。全然話は飛びなすが、専門用語を発音するときは、アクセントが平板化するという現象があります。ハンドル・・・普通に言うよりも平板化して発音してください。なんとなく通っぽくなりますね。文房具の「ファイル」とパソコンデータの「ファイル」の発音が違うのと同じ現象です。ハイテンも自転車同好の方は平板化発音されますが、鉄鋼業界では「ハイ」にアクセントが置かれるようです。こちらの発音の方が、逆に通っぽくなりますよ。
最近では少なくなってしまいましたが、プレステージという商品名で代表されるさらに高強度なクロモリがありますが、こちらは熱処理などで強度を上げています。鉄は混ぜもので合金鋼にする方法以外に熱処理や加工を施すことで、材料そのものが有する強度以上に材料強度を上げることが出来ます。しかし自転車のフレームの場合、溶接加工が絡んできますので、そのような方法で材料強度を上げても、普通に溶接すれば熱処理・加工前の強度に戻ってしまう場合も多く、溶接にはかなりの技術を要することになります。先ほど言った100kg級の高張力鋼も、加工などで強度を上げているようです。クルマの場合は、自転車のフレームのように溶接するのでなく、モノコック成型でボディなどを加工するので、意味があるのでしょう。もっとも継ぎ目はスポット溶接が行われますし、成型自体も高強度なるがゆえに高い技術がもちろん必要なわけですが。
そのほか、レイノルズのマンガンモリブデン鋼や、その他各社が開発した高張力の合金鋼があります。このような高度な材料が使われることは、普通の鉄のALL STEEL BICYCLEが幅を利かせていた時代からするとすごいことですね。
上記のテキストでは、鉄と鋼が混同してしまってます。
「The All Steel Bicycle」のSteelは、鋼という意味になります。英語では、鉄と鋼をIronとSteelで明確に分けているようです。鋼は和語では「はがね」となり、なんとなくニュアンスが変わってしまうのですが、材料の専門分野的には、鉄は炭素含有量が0.2%未満、ほとんど純粋な鉄(Fe)で構成されるもので、強度もなくて現実には使用不可能なものになります。鋼は炭素含有量を0.2~2%程度含有したもので、一般に我々が目にする鉄と呼ぶパイプなどは、全てが鉄ではなく鋼になります。
ラレーの古い文献を訳していて、異種金属のラグで溶接していた・・・と言うのが少し変だと思っていたのですが、どうやら鋼ではない鋳鉄やその他のことを言っているのではなかったかとも思われます。ラレーの開発したラグは鋼板(あるいは鋼管)で成型したラグであり、その意味で、「全て鋼の自転車」といいたかったと思われます。鋳鉄、鋳物用の鉄は、鋳鉄といって英語では「Cast Iron」となり、明らかにSteelと一線を引いています。
なお、ラグフレームの接合は、ロウ付(ロウ接)と呼ばれる接合方法で、材料そのものを溶かして接合する溶接と分けて言うこともあるようです。またロウ付を溶接に類する接合方法とされることもあり、産業によって区別が異なることもあるようでした。
「ハイテン鋼、正しくはハイテンション鋼」と書いていますが、「正しくは・・・」と言う注釈が却って間違いで、日本ではハイテンと言うのが正しいようです。他産業でも高張力鋼=ハイテンション鋼と呼んでいる場合がありますが、英語では「High Tensile Steel」になり、ハイテンサルとかハイテンサイル(一般的な外来語になっておらずカタカナが正しい表記とはいえません)になります。最近でも「テンションが高い!!」などと別の意味で言ったりしますが、以前から日本ではテンションのほうが通りがよくて、そのままになってしまったのかもしれません。ですから、無難にハイテンと略した言い方のほうがいいように思います。上記で説明しましたようにハイテンも鉄ではなくて、鋼になります。「これも鉄です」という表現は、厳密に言うと間違った表現です。
塗装に傷をつけてしまって、鉄だから赤錆びが出てボロボロになってしまうのが心配・・・。
クロモリフレームなどで、心配される方も少なくありません。確かに打ち捨てられたスクラップで悲しいくらいに錆びてボロボロになった鉄クズを見ることもあり、このイメージが強いと思います。しかし、そこまでボロボロになるまではかなりの年月がかかります。ましてやそのくらい心配な方は、日頃メンテナンスも心がけておられるでしょうし、少々傷がついたところで錆が発生することも少ないと思います。ましてや赤錆までには、すぐには至らないと思います。
すぐには必要はないでしょうが、タッチアップで補修しておくに越したことはありません。フレームの塗装はカラーにもよりますが、大抵は2層以上の塗装とクリアーで色合いが表現されているので、一回の塗装で行うタッチアプペイントでは、残念ながら同じ色を出すことはできません。幸い最近は、クルマ用のタッチアップペイントが数多く販売されています。全く同じ色でタッチアップすることが難しいのであれば、クルマ用で一番近しい色を見つけてタッチアップするのもいいでしょう。
全てがむき出しの自転車は、傷ができてしまうことはを避けることができません。しかしそれら傷も今までの履歴と思えば、またこれは一つの楽しみでもあるとポジティブに考えたいです。長年付き合ったランドナーには、大きくはないですが多くの傷がありますが、結構一つ一つの傷を覚えていたりします。以前はこのようなものもなく、プラモデル用のペイントで探して行ったこともありました。
「カラーにもよりますが・・・」と書きましたが、たとえば一般的なシルバーメタリックは、カラーの中でも最も色が出やすい(つまり層が少なくて、塗料も少なくて済む)色です。ママチャリ(軽快車)に多いのも、コスト的な兼ね合いからも意外とこの理由もありましょう。(逆手を取って、軽量化に徹するならシルバーがいいともいえます。塗装の重量は数十グラムで意外とあります。)
なんでもない赤が、意外と出にくかったりします(鮮やかなフェラーリのレッドは、ピンクの下地と上塗りのレッドのクリアーカラー塗装の組み合わせ状況がキモになったりします)。
あっ・・・。素材のコラムでした。このくらいにしておきます。
すでにフレーム材料として普通になったアルミですが、30年位前までは非常にレアなフレーム素材でした。アルミの溶接方法が確立しておらず、パイプとパイプをラグで接着しなければならないところが障壁だったようです。接着材は基本的には樹脂(プラスチック)の仲間です。樹脂はスキーのブーツなどで注意があるように、経年変化で年月が経てば強度が低下してしまいます。接着強度が低くなっても突然フレームチューブが抜けないように、接着プラスアルファの仕組みが必要です。例えば抜止のピンなどを打ち込むようなことです。もちろん接着自体にも接着剤の選定や、接着方法・工程環境に技術が必要であったわけです。アルミフレームというと極太のイメージですが、当時は鉄のフレームとあまり変わらない太さでした。スローピングフレーム出現以前と同じで、見た目のデザインで、あまり大きな変化が好まれなかったこともありますし、接着工法のためにそれほど太く出来なかったのでしょう。
現在アルミフレームに採用されているアルミは、鉄と同じく混ぜ物をしたアルミ合金です。やはり純粋なアルミではまったく強度がありませんが、こちらも混ぜ物で飛躍的に強度が上がります。その混ぜ物の種類で、6000番とか7000番とかのグループに分かれます。なんとなく番手の多いほうが強度もあって高級な材料のように思われますが、一概にそうとは言えません。一般的な実用アルミ合金の中で、もっとも強度のある材料は、7075で超々ジュラルミンと呼ばれるものですが、次に強度のあるものは、いきなり2000番台で、2024超ジュラルミンです。ですから番手が多いほど高級ということはありません。おそらく7075の存在が、7000アルミのイメージを高めたのでしょう。しかし、フレームに使われているのは、残念ながらその7075ではありません。アルミフレームは、TIG溶接という、ボコボコと大きな鱗のような溶接がされますが、(中にはロードのフレームで見られるように、ボコボコ鱗のないTIG溶接もあります)7075はこの溶接には不向きな材料で、溶接用として7005あるいは、7N01というものが一般に使われます。7075は一般実用アルミの中で最強の50kg以上の引張強度を有しますが、7005は35~40kg程度です。また溶接用アルミ合金として、6000アルミが7000アルミ以上に多いのですが、こちらは6061というアルミ合金が多いです。6061は一般的に溶接用アルミ合金として使われたり、その他多くのアルミ製品に使われるものです。こちらは引張強度として26~30kg程度で数値としては7005に譲ります。
強度を考えれば7005を使えばいいのですが、7000番台と6000番を比べると腐蝕しにくさの点で6000番が勝ります。溶接後は溶接部分が他の部分よりミクロに見ると材料が変化しており、応力腐食割れというものも進行する場合があり、この点を考えると6000の方が長持ちしやすいともいえるのです。また、強度があるからといって必要以上に薄く軽く出来ないのが難しいところで、7000の方が強度がある分薄く軽く出来ますが、衝撃に対しては絶対的な厚みが要求されます。したがって7000アルミでも、6000アルミでもそれほどフレームの重量が変わらないのが実情で、ある程度寿命を犠牲にしながらも、さらに軽量性を求められる場合7000を使うことが多いように思います。
アルミは強度を上げるために混ぜ物をした合金化だけでなく、熱処理が必要になります。主に使われるのはT4を行った上にT6と言う熱処理を行うことです。T4熱処理は摂氏500度ほどの高温設備が必要で、200度まで至らないT6に比べて設備も大掛かりになります。しかしながらこのような熱処理を行うことで、材料によっては先ほど説明したハイテンション鋼並みの50kgもの引っ張り強度を得ることも可能になるのです。
フレーム溶接は熱を加えることになりますが、せっかくの熱処理した強度はどうなるのでしょうか。6061がもっともより一般的な材料であったのに、日本で最初に7000アルミが自転車フレームでよく使われるようになった理由は、そのほかには溶接加工性によります。溶接部分は非常に高熱になるため、せっかく熱処理をしたアルミ合金も溶接後は強度が低下しますが、特に日本で開発された7N01は、T6熱処理された材料も、TIG溶接を行ったあと、暫くすると元の強度近くまで戻ると言う性質があり、熱処理したチューブでフレームを溶接して、フレーム溶接加工後の熱処理が不要であったことも要因であったのです。6061はこの方法が難しく、普通は熱処理されていないパイプでフレーム溶接加工を行い、溶接加工後T4、T6の熱処理が必要です。フレームになった後は、チューブだけを熱処理するのと比べて、柄が大きいだけにさらに大掛かりな熱処理設備が必要になるのです。もっとも7000でも未熱処理のパイプで溶接してから、溶接後熱処理を行うほうがいいようです。熱処理したパイプはすでに高強度になっており、フレームのひずみを取るときに、ストレスを与えることにもなります。
ラレー・ロードCRT(2004モデル)とALANアルミフレーム。 フレームの太さが歴然と違います。
ALANは各チューブがラグにネジ込んで接着する込み入った方法を取っていました。1980年代に、Gary Kleinが極太アルミチューブの溶接フレームを紹介するまでは、アルミフレームは全てALANに準じたラグ接着フレームでした。
Kleinのフレームは6061でフレーム溶接後T4-T6熱処理をする工法でした。ALANはアルミのどのような種類の材料を使ったのか手元に資料がありません。しかし、細い分2mm以上もある肉厚のパイプを使っていたようです。ちなみに現在では薄い部分では1mmくらいのものも多いです。
アルミは、合金化や熱処理で強度を上げることもでき、さらに圧倒的な比重の軽さでフレーム重量で実用金属の中ではかなり軽くフレームを製作することが出来ます。比重とは1立法センチメートルの体積で何グラムかを表します。一辺が1cmのサイコロで何グラムかになり、水が1gで基準になっています。鉄が比重7.8gに対してアルミ合金は2.8gで、その差は歴然なのです。
フレーム単体で2kg以下のクロモリフレームは軽量と言える範囲になりますが、アルミフレームでは普通に作っても1800gくらいで出来ますし、乗り手や使い方を選びますが、軽量化に徹すれば1kg近いものも可能です。軽量化を求めるのであれば、アルミは絶対ですが、また違った面もあります。よく言われるところのアルミフレームの硬さです。別にアルミが硬いわけではありません。アルミフレームは強度を上げるために大径のチューブを使います。チューブは同じ重量であれば、直径が大きく肉厚が薄いほうが絶対的に強度が上がります。クロモリもそのようにすればいいのではないかといえますが、軽量なクロモリフレームはは薄い部分で0.5~0.6mmくらいしかありません。これ以上大径にして肉を薄くすると、ペコペコになってしまい、パイプとしての計算上の強度は上がるでしょうが、すぐに凹みやすいパイプになり、衝撃に対しては非常に弱くなってしまいます。
チューブの強度を表す計算として下記の計算式があります。
(D³-d³)σ
D:チューブ外径、d:チューブ内径、σ:材料降伏点
後で述べますがアルミには降伏点と呼ばれる強度の値がなく、かわりに本当は計算としては乱暴ですが引っ張り強度を当てはめて見ます。
一般的なクロモリで28.6mmのダウンチューブで肉厚が0.9mmあった場合と、同じく一般的なアルミフレームで44mmのダウンチューブ肉厚が2mmあったとします。クロモリの引っ張り強度80kg、対してアルミ6061で30kgあったとします。
計算をしますと
クロモリ:28.6mm肉厚0.9mmで、チューブ内径は28.6-0.9-0.9=26.8
(28.6³-26.8³)×80=331586
アルミ: 44肉厚2mmで、チューブ内径は44-2-2=40
(44³-40³)x30=653520
計算より値にしてアルミのほうが2倍ほどのチューブ強度を有しています。これだけチューブ強度があるものでフレームが構成されるわけですから、フレームとしての剛性が相当高くなり、結果として硬いフレームになるのは致し方ありません。アルミフレームの黎明期にはクロモリフレームとあまりチューブ径が変わらないものが用いられていましたが、その頃はアルミフレームは決して硬いものではなかったはずなのです。これだけチューブ強度があるのならもっともっと薄いパイプにして軽量化を行えばいいのではないかといえます。先に述べたアルミチューブの仕様は極一般的なもので、確かにもっと薄いものもあります。しかしあまり薄くなると衝撃や凹みに対して弱くなるだけでなく、アルミの素材の特性をカバーするためもあります。
わかりやすい例として、バネの例があります。繰り返し伸び縮みが要求されるバネ(スプリング)は鉄で出来ていますが、アルミで作られたものは特殊な例を除いて、まず見当たりません。鉄には、ある程度までの外力であれば、繰り返し加えても、半永久的に破壊しないという疲労限度が存在しますが、アルミの場合はこの疲労限度がほとんどありません。すなわちどんな小さな外力でも繰り返し加えられることで、最終的には破壊してしまいます。また、また材料は、外力に対して材料が比例的に伸びますが、ある一定の値の外力からは比例が崩れて急激に伸びが増えます。この一定の値を降伏点と呼びますが、アルミには明確な降伏点が無い上に、ヤング率という外力に対してのひずみ(わかりやすく言うと伸び)の割合が鉄に比べて3分の1しかありません。「ナウなヤングの・・・」の死語ではありません。トーマス・ヤングさんが定義したヤング率は、同じ金属であれば、どんなに強度が変わっても数値は一定ということです。実用アルミ最強の超々ジュラルミンも、1円玉アルミもヤング率は同じです。超々ジュラルミンも、ヤング率では、鈍らな鉄くずの鉄にヤング率では負けてしまいます。このような絶対的な性質の不利さにより、アルミではスプリングが出来ないのです。アルミフレームが鉄に比べて寿命が短いのもこのような金属の特性にあります。それらの不利な条件を少しでも克服するために、計算上強度では、鉄よりはるかに数値の高いチューブを採用せざるを得ないわけで、それが剛性の高さ、すなわちフレームの硬さに現れてきます。
しかしながら、本当にアルミフレームの硬さを実感できる人がどのくらいいるのかは、はっきり言って不明です。目隠しをして自転車に乗ってアルミフレームかクロモリかを言い当てる人は非常に少ないと思います(もっとも目隠しして自転車は乗れません。これも実験しないでください)。それよりは情報による感覚が大きいと思います。ある方が仰ってましたが、長時間乗り続けるとクロモリの場合、なんとなく疲れない気がする・・・。これなどはある程度、的を得ているかもしれません。
何よりアルミフレームのモデルは軽く出来ています。持ったときに軽いのは、また違った意味で心理的効果が大きいです。またあるいはクロモリは基本的にフレームが細く、見た目にビンテージな雰囲気を醸し出します。この雰囲気・デザインが好きな人には、代えがたいものです。
アルミもクロモリも、フレーム素材としては十分に熟成されたものになっており、どちらを選んでも問題はありません。素材特有の特性も感じ取ることは難しくても、気分を優先するのも悪くはありません。また上記なんとなくクロモリに軍配を上げているような内容になりましたが、やはりアルミの軽量性も捨てがたいです。私は非力なだけにアルミの軽量さにどうしても惹かれます。クロモリやアルミ、選択の幅が広がったと言うことはいいことだと思います。
いきなり、お堅いグラフで失礼します。鉄とアルミの応力-ひずみ曲線の一例です。
鋼材(鉄)の場合は、E点までは応力(引っ張る力)とひずみ(伸び具合)が比例的になっていますが、E点を境にしてひずみばかりが増えます。このE点を降伏点といいます。鉄に特有な性質で、一般的に素材にはこれほど明確な降伏点はありません。また鉄だと、クロモリであろうが普通鋼であろうが、θは変わらず降伏点までの応力とひずみの関係は同じです。降伏点と引張強度が違うだけで、これが素材が同じ仲間ならヤング率は同じと言う関係です。
アルミには鉄のような明確な降伏点がないのがお分かりいただけると思います。
それっぽい公式を書いてしまいましたが、
(D³-d³)σ
D:チューブ外径、d:チューブ内径、σ:材料降伏点
これはパイプの曲げ強度を表す式でして、強度と剛性は関係はあるというものの、厳密には違い、強度=剛性のような表現になってしまい、恐縮です。
曲げ剛性については3乗でなく、4乗になる式が存在し、式を出して剛性を言ってしまうのは間違いであるといえます。
自転車の性格は素材よりも設計の違いによることも大きいと言えます。 また、アルミフレーム独特の大径のチューブが剛性の向上になっていることがあるかもしれませんが、上に上げた式から導かれると言うよりも、一般的な傾向として、現在のアルミフレームは、クロモリフレームよりも硬い印象があると表現したほうがいいかもしれません。 しかしながら、あくまで一般的な傾向であり、各人それぞれ乗り方、感じ方があり、官能的な面も大きく左右されますので、これら傾向のことが全ての方に当てはまるかどうかは、判断が難しいところになります。
鉄やアルミは金属ですが、カーボンは金属ではなく、まったく違ったものです。自転車はその多くが無機物で構成され、唯一サドルとグリップくらいが有機物であったのですが、カーボンが多くなり、その関係が崩れてきました。またカーボンだけでなく多くの強度あるプラスチックも開発され、これらも有機物になります。
カーボンは、このままの言葉ですと単なる炭と一緒です。CFRPカーボン・ファイバー・レインフォースド・プラスチックと言うらしく、炭で出来た繊維と強度アップされた樹脂であると言うことです。全ての有機物は高温状態で炭化しますが、アクリル繊維などや石油・石炭などを材料に高温で炭化させた髪の毛よりもはるかに細い繊維を編んで布のようにして、その布を何層にも重ねて固めた材料です。繊維の選定にはじまって、編み方、重ね方、重なり枚数などいろんな条件で出来上がった材料の特性を大きく変えることが出来ます。
カーボンの魅力は、軽さや強度ももちろんですが、この独特のカーボン模様が自転車をはじめ、ゴルフクラブや、ラケットなどで、私たちを惹きつけますね。 カーボン模様の「なんちゃってカーボン」も多いわけです。(もちろん上の写真は、なんちゃってカーボンではありません。念のため。
鉄やアルミのように、材料名がわかればおおよその特性がわかるものではなく、カーボン素材メーカー、CFRP製法の違いにより変わりますので、ブラックボックス的な素材です。
このような違いはあるにせよ、カーボンの特徴は、まずは軽さであり、比重は軽いとされるアルミの60%しかありません。またアルミの場合は比重が軽いが、特性の関係で計算上鉄以上の強度を必要としましたが、カーボンの場合は引張強度、またヤング率間でも製造方法によっては大きく高めることも出来ます。またそのような特性もあって振動吸収性も同時に高めることが出来ます。このように書くと自転車にとって本当に理想的な素材であるように思います。しかしながらこれらは全て、先ほど言った製造方法によることが大きく、CFRP全てが自転車に向く特性を持っているわけではありません。色々な産業別にベストな特性を持った製造がされるのです。共通して言えることは軽量であるという特徴でしょう。
語感といい、見た目のハイテク感といい、未来的な素材で惹かれるものがあるのですが、問題としては製造工程上による材料のコストが一番です。材料だけでなく、フレームにするにも、従来工法である溶接とは完全に異なり、樹脂を成型するような工法ですから、設備・技術が違い製造が限定されます。以前はカーボンのチューブを作ってから、ラグで接着する方法も取られていましたが、接着の問題などにより、現在では一体で成型する工法が多くなったのです。また見た目にも前衛的なデザインになり、これもポイントが高いです。
しかし、樹脂の仲間ですから、リサイクルと言う点では金属素材に完全に譲ってしまいます。樹脂でも決まったプラスチックで作られた製品、例えばPETボトルなどはリサイクルしやすいプラスチックですが、CFRPはいろんなものが混じった複合素材ですから、リサイクルはほとんど不可能で、廃棄後は産業廃棄物にしかなりません。現在のところあまりエコロジーな素材ではないのです。また樹脂ゆえに経年変化の問題もあり、外力により破壊しない限り永久に使い続けられるものでもありません。
金属材料と異なり、自然界から取り出すものでなく、自然界にレアだから高価であるということでもありませんし、材料の特性の問題でもなく、製造工程上のウェイトが高いものです。それだけに、今後もっと一般化する可能性も秘めているものだと思われます。
ギリシャ神話の地球最初の子、巨神族タイタンが語源です。実用されたのはかなり近代に入ってからです。トタンは亜鉛メッキの鉄板です。混同しないようにしましょう(←誰も混同しません!!)
ちょっと最近目にすることが少なくなってしまった材料ですが、カーボンからまた戻って、こちらは金属です。金属元素を使ってTiなどと表示されることが多いです。鉄FeやアルミはAlとあまり言われない現状からすると、なぜかチタンだけ異例ですね。比重は4.5gでアルミより重いのですが、強度は合金化することによりクロモリくらいの引張強度を持たせることも出来ますし、疲労強度やヤング率などの特性もアルミより非常に高く、また酸化しにくい、つまり錆びにくく、チタン特有の金属光沢の美しさを保ち続けます。
全然、チタンと関係ありませんが、BMWのエンブレム一例です。ここで言う「ti」は「ツーリング・インターナショナル」らしいのですが、このような使われ方で、なんとなく「Ti」の持つ語感がよくてチタンのことをTiしてよく使われたのかもしれません。愛のスカイラインにもTIがありましたが、こちらはスカGに押されてあまりパッとしませんでしたね。 それに比べて、鉄→Feはスペルから連想しにくいし、アルミ→Alは「l」が1と間違えそうで、一般に使われなかったと思うのですがどうでしょう。
その点では素材として理想的なものなのですが、欠点は材料コストが非常に高いこと、熱を加えると酸化してしまい、本来の強度を大幅に低下してしまいます。そのため溶接するときは酸素の無い状態で溶接しなければなりませんし、切断するだけでも高温になりますから細心の注意が必要です。材料が高い上に、製造する際にも非常に手間が掛かってしまい、結果製品としての価格が大幅に上がってしまいます。チタン特有のメリットを考えても、費用効果が見出せにくく、あまり使われなくなっているのが現状です。
しかしそれを補っても、持っているステータスを感じれば、その意味はあるのかもしれません。金(ゴールド)はそれ自体何かに使えるわけではありません。特徴は何物にも侵されず、金独自の光沢を保ち続ける金属として値打ちがあるわけで、チタンもそれに近いステータスがあるのかもしれません。もっともチタンは自然界に多く含まれるのですが、チタンと言う金属として精錬するのに非常なコストが掛かることが、レアな理由になります。
チタンも合金化することにより強度がアップします。自転車用素材としての合金では、アルミ(Al)とヴァナジウム(V)でAl3%とV2.5%を入れたものが3-2.5Ti、Al6%・V4%が6-4Tiで前者はフレームチューブ、後者はリヤエンドなど塊に使われることが多いです。6-4Tiになると引張強度で120kgくらいで、クロモリをはるかに凌ぐ強度を持っています。混ぜ物のない純チタンは、メガネのフレームにも使われたりしますが、引張強度33~50kgくらいあり、いわゆるハイテン並み。加工をすることで90kgくらいの純チタンもあります。またチタンは、生体組織とも仲が悪くないので、骨折の際に骨の補強に使われたり、ピアスにも使われます。
よほど画期的な技術が開発されない限り、自転車用としては多分これからも金のような状態であり続けるのだろうなぁと思います。他の素材と違って急に流行遅れにならないものかもしれません。
実用金属では最軽量な比重1.8gが最大の特徴の金属です。強度はアルミより低いのですが、これも合金化で強度を上げることが出来ます。混ぜ物としては、アルミと亜鉛(Zn)が使われ、アラヤマディフォックス・マグネシウムフレームに使われたのはAZ91というアルミ9%、亜鉛1%を含んだもので引張強度は24kgでした。普通鋼並みの強度ですが、4分の1以下の比重が大きなポイントでした。(しかし、フレームとしての強度を考慮すると計算上可能な大幅な軽量化が出来なかったのは、後に述べる通りです)
またマグネシウムの特徴としては、非常にリサイクルしやすいこと、海水にも多く含まれていることからも、極端な話、放っておいても自然に帰る金属です。
1992年マディフォックスカタログより、マグネシウムモデルのイメージページです。「海から生まれた新素材」がキャッチになっています。
マグネシウムの多くは、海水から精錬されます。海水1kgにはマグネシウム1.3gほど含まれていますが、アルミはわずかで0.00000003gです。ミネラルウォーターにもマグネシウム含有率が書かれていますね。マグネシウムは豆腐のにがりにも使われますが、ミネラルとして摂取することにより、生活習慣病の予防にも効果があると言われています。環境にも体にも優しい材料なようです。
比重に対する強度は、アルミよりも優れたものですが、一番の問題は酸化しやすいこと。酸化などと生易しいものでなく、非常な勢いで燃え上がってしまう場合もあります。マグネシウムのこの特性を利用してカメラのフラッシュにも使われました。
軽快車(ママチャリ)の鉄メッキ部品の代用高級素材として認識されがちで、あまりスポーツバイクでは省みられることの無い素材ですが、最近では高強度のものも多く、これからの素材になるかもしれません。ステンレスも鉄の一種ですが、錆びない鉄として重宝されている素材です。デンタルクリニックでもステイン(くすみ)を予防することが注目されていますが、ステンレススチールとは、ステインしない鉄とということなのです。
錆びない(実際には錆びにくい)鉄という特性のほかに、最近ではクロモリ並みの強度を有した高強度ステンレスも実現しています。アラヤリムでステンレスライトという軽量なステンレスリムがありましたが、鉄独自の丈夫な特性と、ステンレスの錆びにくさ、一般車用アルミリムレベルの軽量性を有したものでした。ステンレスリムとしては少し高価なものになり、残念ながら一般車用リムではここまで要求される需要が少なく、現在では暫く休止をしております。
上図でステンレスライトと、一般的ステンレスリムの断面を比較していますが、ステンレスライトの薄さを確認いただけると思います。
チタン同様錆びにくい特性で、ステンレス独自の光沢を持ち、高強度なものは今後スポーツバイクにも展開されてくるかもしれません。
一般には18-8ステンレスと18ステンレスが使われます。約18%のクロームと、8%のニッケルで合金化されたものが18-8。ニッケルを含まず約18%クロームを含むものが、18ステンレスです。18-8は磁石がつきませんが、18は磁石がくっつきます。一般に18-8がより高級で錆びにくいとされていますが、海外製18-8なども多くなり、一概にそうとも言えなくなりました。赤錆が浮いている18-8ステンレスも見かけたりします。
CFRP以外あまりフレームには使われませんが、プラスチック、樹脂もコンポーネントの一部として台頭してきています。プラスチックというイメージがいいイメージでないのは、ちょっと自分も含めてですが、「プラッチック」と発音する年代以前になるのでは?・・・。確かに昔のプラッチックは硬く、脆く、傷つきやすく、いいイメージがありません。しかし金属以上に材料工学の進歩が速く、現在では様々な用途向け、強度を有したプラスチックが研究され、一般化しています。
例えばドロヨケに採用されているポリカーボネート。金属のドロヨケではありえない、折り曲げにもびくともしない材料です。この材料は随分以前にガラスレンズの代用として廉価なサングラスのレンズなどで使われたらしいのですが、その頃は素材としてもまだまだで、すぐに細かい筋状の曇りを発すると言う点で、いいイメージの無い場合があります。「象が踏んでも壊れない」筆箱は、ポリカーボネート製の強度によるところが大きかったようです。
例えばナイロン樹脂。実用プラスチックでは一般的にもっとも高強度なものです。サドルの樹脂ベースには、軽快車などでは汎用樹脂のポリエチレンが使われることが多いですが、スポーツバイク用は軽量を求めるためナイロン系の高強度なものが使われます。これとて、はじめて知られだしたのは繊維として、絹製衣料素材の代用品でした。ナイロン出現のために、かつての日本の絹製糸業が大打撃を受けたと言うことらしいです。
ポリカーボネートやナイロンなど、高強度や高い特性を持った近代開発されたプラスチックを、エンジニアリングプラスチックと言うこともあります。卑近なPETボトルのPETも、ポリ・エチレン・テレフタレートというれっきとしたエンジニアリングプラスチックです。リサイクルされてフリース素材に使われるのは有名ですが、ポリエステルの仲間でもあり、こう書くと廉価の呉服のようなイメージになっていけません。クルマ業界では、この樹脂のジャンルの研究も多くされており、ボディの一部をプラスチックで置き換えたりすることも試みをされていますが、なかなか一般的には至っていません。
30年ほど前にボルボの研究所で、全て樹脂で作った自転車が開発され、実際に販売されたことがありました。当時考えられる素材と製法・設計など徹底して作られたものでした。テクニカルマニュアルを読んだり、実際に乗ってみたこともあります。特異なデザインには一票入れますが、誰が目隠しをして乗っても違和感を感じる乗り味で、消滅してしまったようです。コンポーネントとして、それぞれ受け持つ特性に応じてプラスチックを用いることは、今後も増えていくでしょうが、フレームなど構造体にはまだまだ難しいところがあるようです。
左記で説明したITERA(イテラ)のオールスチールならぬオールプラスチック自転車。細部に亘るまで、オリジナルのプラスチック部品で構成された画期的なものでした。
随分以前、樹脂を多く採用したフランス製部品がありました。デルリンというデュポンが開発した当時最新鋭のエンジニアリングプラスチックを採用し、60年代にはすでに実用化し発売していました。日本では主に独特の風合いとデザインで、コレクターズアイテム性の強いものとして認識されてしまいましたが、まだ今になってもプラスチックが自転車で一般化されないところを見ると画期的な出来事であったのでしょう。そのメーカーはすでになく、以降開発がストップしてしまっているようなのは、何だか有人月面着陸のアポロ計画のような感じです。
プラスチックのもつ側面として、あまり芳しくないリサイクル性があります。最近になって分別が言われていますが、それでもゴミとしては悪者のイメージがありますし、製造上も多くのエネルギーと石油を消費する意味でも分が悪いです。
また、ダイオキシンのことも言われます。ダイオキシンは、プラスチックに含まれる塩基(塩分)と反応して発生するものです。ポリエチレンのレジ袋は塩基を含みませんので、「ダイオキシンを発生しません」とプリントがしてあるのです。ダイオキシンを発生する樹脂は、生活上使う樹脂製品の中では塩化ビニルくらいのもので、例えばビニールレザーや、水道のホース、雨とゆやプラスチック配管、電気コード被覆材などに使われます。自転車ではサドルのビニールレザーやグリップなどです。ビニールといっても一般に言うビニール袋は、ほとんどがポリエチレンで塩化ビニールではありません。
混同されやすいのですが、塩化ビニールはそれ自体がダイオキシンを発生するわけではありません。サドルのビニールレザー自体がキケンではありません。廃棄して焼却したときにダイオキシンを発生するのです。それもある一定の高温以上で焼却すると発生を食い止められますが、焼却炉の耐久性の問題があるので難しいのです。ダイオキシンを発生しにくいように代替素材の研究も進んでいますが、塩ビのもつ高い耐久性に変わるものを見つけるのが難しい状況です。もっともサドルを焼却炉に放り込むことは状況としては思いつきにくいです。塩ビ以外では意外と食品用ラップに塩基を含むものがあることです。ポリ塩化ビニリデンというのがそれで、こちらなどははるかに焼却炉行きのケースが高いですね。扱いやすさは一歩譲りますが、ポリエチレン製のラップを使うようにしたいものです。
塩ビのように、後々環境に負荷を与える可能性のあるものを、環境負荷の大きい物質といい(塩ビをいきなり有害物質とする場合もあります)、アスベストのようにそれ自体で有害なものを有害物質として分けています。有害物質は六角ロムやPCB、カドミウムなどわかりやすいものが多いのですが、環境負荷の大きい物質はかなりの広範囲です。もっとも、自然にあるものでなく、人間が作り出した素材は全て環境負荷の大きいものと極論もできるのでしょう。自分自身も環境負荷大物質にならないように、気をつけなければなりません(笑)。
金とて、もし誰も振り向かなければ(そんなことは絶対ありえないのですが)、腐食もしないでそのままあり続けるわけですから、考えようによっては環境負荷が大きいものになってしまいます。「ウチの近くで金を捨てる人が多くなって、眩しくてかなわん!!」と言う事態になり、行政が撤去に動くというシナリオが考えられます。開国前のかつての日本では、自国であまり産出されない銀の値打ちがわからずに、金と銀を同じ重量で海外と交換していたとの事。黄金の国の面目躍如ですな。
こんなことを書くと、新車が売れなくなってしまうので、商売としては言うべきではないでしょうが、モノを長く使う事が、環境保全にとって大切なことなのでしょう。前述したように、人間の作り出したものが廃棄されれば環境負荷が大きくなります。そのためには、飽きが来なくて、耐久性のある商品を選ぶことが一番でしょう。自転車は、柄も大きく、廃棄されれば始末も悪く、廃棄物の中でもとりわけ一番に悪者にされている感じです。よく言われる駅前放置の自転車の多くが、盗難車でもあるようです。全てがそうだとは言いませんが、使い捨て雑貨のような感覚で使われた自転車は駐輪するにもあまり配慮がなされず、盗難に遭いやすく、その結果駅前に放置されたりするようです。長く使い愛着を持っていれば、駐輪するにも注意が払われるでしょうし、盗難にも遭いにくくなるでしょう。しかし大事に使っていても、それでも盗難に遭うことも多く、時折寄せられるご相談などをお聞きするたびに、なんとも言えない気分になります。大事に使われた物には魂が宿るそうです。盗難をした人には決していいことはありません(都合のいいときばかり、神様に頼るようですが)。不埒な方(ヤツ?)が増えないことを祈るばかりです。
中古自転車の販売もも最近多くなりました。リサイクルと言う点ではいいことでしょう。しかし、これも全てとはいませんが、中には極端な廉価のものもあり、使い捨て雑貨感覚で接すれば、結局ゴミの再生産に繋がってしまいます。また、専門店以外で作られた中古車には、26インチに24インチのチューブが入っていたり、本来適合しない部品の組み合わせなども散見されます。早晩、修理が必要になったり、事故に繋がったりして、結局高い買い物になったりしますし、事故で怪我などすればそれこそ大変です。繰り返しますが、これも全ての専門店以外の中古車が悪いとは言いません。しかし、これらの見極めは、現物を見るだけでは、非常に難しい事です。
自転車の放置がこれ以上目立つようになれば、自転車の免許制や、より強力・強制的な登録制などが実施されたりして、自由性が高い自転車を取り巻く環境が窮屈になってしまうことが考えられます。少しでも盗難が少なくなり、一人ひとりが自転車を大切に、長く使われるようになることを願うばかりです。
子供の頃に見た、テレビ漫画(アニメとは言わなかったなぁ)では、ヒーロー達は鋼鉄のボディを持っていました。新幹線より速い人造人間が鋼の胸をスペックしていたことは、防御の点からとは言え、今から思えば重量を無視した材料設定を誤った仕様ミスと思われます。クロモリでもない単なる鋼鉄が少年の心を捕らえる位、今のように色々な材料が登場していなかったのでしょう。それからアニメ業界も気がついたのか、超合金などと言う、ナンダカな金属でごまかさなければならなった時代も、まだまだ今のように色々な素材が確立していなかった時の空気でしょう。これ以上書くと歳がバレるので(←「象が踏んでも・・・」で、十分バレてます)言及は避けます。今はこの分野どうなっているのでしょう。もっともこの手合いのアニメなどは現在は流行らないのかも。
スローピングフレームに続く自慢話になりそうですが、すでに15年ほど前に、クロモリ、アルミははもちろん、カーボン、チタン、マグネシウムと上記で述べた素材をフレームに展開していた頃があります。結局、費用効果などが難しいと言う点で、継続して採用するのが難しいものもありました。多くの色々な新素材を積極的に採用したこと、超合金と同じノリであるとの謗りも免れませんが、そのような時代を経て色々な材料と友達になれたのは僥倖かもしれません。
1992年マディフォックスカタログより。
カーボン、チタン、マグネシウム、アルミ、クロモリ&プレステージの5階級制覇(?)を誇らしげに謳いあげております。
材料のことについて、簡単に・・・いや相変わらずダラダラとなってしまいました。材料は金属に限らずプラスチックまで含めて、研究を日夜されておられるお陰で、今では非常にハイテクな材料も自転車に採用されるようになりました。もちろん研究者の方々は自転車のために研究されているわけでなく、あらゆる工業分野、あるいはもっと差し迫ったものとして軍需産業展開の目標も高かったのでしょう。しかし冷戦終結後、これらハイテクな材料も自転車をはじめ民生用に使われだしたのは、あらゆる面でいいことかもしれません。ソ連が崩壊した後、もてあました材料と設備を使って、チタンやCNC精密機械加工部品が自転車用にあふれ出したのも記憶に新しいことです。
しかしながら、現在は冷戦以外での軍需目的の増加も増えているようです。また中国をはじめ最近工業・産業が急速に高まった国々への需要が大幅に高くなり、それにつれて材料の値上がりが、経済とはまったく別の動きをしているのが顕著になっています。2~3年前の大幅な鉄鋼の値上がり、昨年から今年にかけてのアルミ材料の高騰、その他ニッケルをはじめの合金化に必要な金属の再三にわたる大幅な値上げなどで、ステンレスをはじめ高騰が止まる様相がありません。需要からだけでなく投機的な意味合いも含めての大きな動きがあるようです。日々金属材料の相場が大きく変化し、それを見計らっての手配となることで、時期によっては素材が急激に市場から希薄になることも多く、相場を見るだけでなく、素材の入手にメーカー購買担当の手腕が必要になるようになってきました。
一時のネットバブルの雰囲気を、このようなお堅い工業材料の世界でも見るようで、なんとなくいやな気分にもなったりしますが、その辺の状況も別に詳しいわけではありません。こちらもこれ以上の言及は避けたいと思います。